労働衛生コンサルタント試験合格体験記(その4)(2023年度 労働衛生工学合格)

労働衛生コンサルタント試験合格体験記
          (2023年度 労働衛生工学合格)        Asum会員 Ko
                      
0.はじめに
労働衛生コンサルタント合格体験記(保健衛生)、労働安全コンサルタント(電気安全)の合格体験記に引き続き、この度3年間の受験勉強の果てにようやく労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)に2023年度に合格いたしましたので、合格体験記を寄稿いたします。

1.受験の動機
労働衛生コンサルタント保健衛生に2018年度に合格、労働安全コンサルタント電気安全に2020年度に合格し、当初は労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントの資格はいったんこれで終了し、事務所開設の準備をしつつ、自身の技量を高めていく予定でした。
しかし、2019年ごろから、化学物質の自立管理の動きが厚生労働省の内部で顕在化し、その中で活躍の場を得るためには、労働衛生コンサルタント・労働衛生工学の資格者であることが有利になることが明らかになりました。
また、この動きをきっかけに自分の業務経験を棚卸してみると、健康診断項目と運用の見直し、メンタルヘルス管理体制・ハラスメント相談体制の構築、熱中症予防運動の推進、長時間労働の改善と事後措置といった保健衛生分野の業務経験と同時に、化学物質リスクアセスメントやX線使用機器、局所排気装置の導入と社員教育などの労働衛生工学分野についても業務の中で深くかかわってきました。労働衛生という分野においては、保健衛生に関する分野と労働衛生工学に関する分野の双方にかかわってきたことはコンサルタントとしての私の特長・強みになると思い、労働衛生コンサルタント・労働衛生工学の受験を決意しました。

2・2021年
幸いといっていいのかわかりませんが、2度の労働安全衛生コンサルタント受験の経験から、受験を決意した段階で10年分の過去問が手元にありました。ざっと目を通した結果、筆記試験の合格のキーになるのは、問3、問4に必ず出題される「局所排気装置」の設計であることがわかりました。ここは同じような問題が繰り返し出題されており、過去問さえきちんと押さえておけば、少なくとも50点中30点は取れるだろうと感じました。
問1については、化学物質のリスクアセスメントもしくは作業環境測定のいずれかが出題の中心になっていますが、過去問10年の範囲では同じようなことが繰り返し聞かれているので、過去問+労働衛生の基本的なこと、最新の法改正に関するトピックスを押さえておけば、こちらも悪くても50点満点中10~20点は取れるだろうと考えました。
そこで、作戦としては、労働安全コンサルタント電気安全の時と同様に、労働衛生一般と労働衛生法令で80%以上をとって、専門科目では40%以上取れればいい状況を作り出す。確実に出題される局所排気装置で30点、あわよくば局所排気装置で40点を狙いに行く、問1と合わせて、専門科目は40~60点を目指す、と方針を定めました。
まず、6月にコンサルタント会主催の労働衛生工学基礎講座・受験準備セミナーを受講し、そこで局所排気装置の計算の基本を学びました。このセミナーの時のテキストは3年間ずっと活躍しました(「やさしい局所排気装置設計」などの関連書籍も購入しましたが、結局3年間局所排気装置の設計に関してはこのセミナーのテキスト以外見ることはありませんでした)。
労働衛生一般と労働衛生法令については、労働衛生コンサルタント・保健衛生の時と同様、過去問10年分と衛生管理者の厚めの問題集(電気書院発行のもの)をやりこめば十分8割は取れる、と感じていました。
局所排気装置の計算は、最初に間違えると全滅するので、そこを中心に筆記試験の勉強を進め、試験日の前日を迎えました。
しかし、、、
試験日前日、妻と娘が高熱を出し、発熱外来でコロナ陽性と判定されました。

私も自宅待機を余儀なくされ、受験することさえできずに、1年目の試験は終了することとなりました。

3・2022年

気を取り直して、2022年です。
筆記については、昨年度おおむね押さえておきましたので、9月からの勉強で余裕をもって間に合いました。
昨年と同じ勉強方法に加え、過去問をもう2年分購入し、12年分の過去問を完璧にしました。それに加え労働衛生のしおりを中心に法改正関係だけ押さえておきました。近年のトピックス的に溶接ヒュームのフィットテスト関係とCD測定のいずれかは出るだろうと思っていましたので、そこも重点的に押さえておきました(これは見事に的中しました)。
筆記に関しては、予定通り、マークシートで80%以上取れました。筆記についてもこの年は局所排気装置の問題が易しく、問1の予想が的中したこともあり、50~70%は取れていたと思います。
筆記試験は合格している可能性が高いと思ったので、口述試験の準備にすぐに取り掛かりました。
ちょうどこの年、作業環境測定士の登録講習を受けており、そのテキストが労働衛生一般について深く触れていたので、それについて中心に、予想応答集をまとめました。

ASUMの先生方による模擬口述演習も年明けに行い、できるだけのことをして当日を迎えました。

口述試験では、最初に経験している業務について質問された後、労働衛生工学に関する改善事例について質問されました。志望動機について一切質問がなかったのが印象的でした。
その質問には、保全ヤードでのアーク溶接実施時に全体換気装置のスイッチ入れ忘れが多かったので、保全全体換気装置とアーク溶接の電源の装置のインタロックをとり、工作室で作業をする際には全体換気が動いていないとアーク溶接装置に通電しないという改善を行ったことを説明すると
「それはどちらかというと衛生工学というよりは安全的な改善だねぇ,ほかにないの?」と聞かれました。
組み立て機への騒音低減対策の取り組みなどを説明しましたが、コメントが「自動車部品製造業だと、労働衛生に関するハザードはあまりないのかな?」であり、そもそも最初の問答で労働衛生に関する経験があまりないと思われてしまったようです。今思うと、この時点で試験官は不合格の判断をしていたと思います。かなり雰囲気が固くなった状態で、その後の口頭試問が続きました。
結局そのあとも、グダグダな雰囲気のまま終了時刻を迎え、試験の最後に「今後もがんばってください」と事実上の不合格宣言を受け、この年の試験は終わりました。
※参考までに、全体換気と局所排気のバランスのとり方、アスベストに関する法改正の内容などについてが、ほかに質問された内容です。

この年分かったことは、
・労働衛生工学では、志望動機や受験者のやる気に関する質問は聞かれない
・必ず最初に「改善事例」について聞かれ、ここで大体の受験者のレベル感をつかんでいる
・直近の法改正に関係する質問はされる可能性が高い
という3つでした。

4、2023年
筆記については、保健衛生受験時も含めると、勉強するのは4回目です。労働衛生一般25/30、労働衛生法令12/15、筆記についてもおおむね予想の範囲内の問題が出たので、余裕をもって回答できました。
※この年は、問1に保護具に関する問題がかなり詳しく出たのですが、社内で保護具着用管理責任者の講師を務めていたため、保護具関係の知識はかなり仕上がった状態になっており、それが幸いしました。

口述については、知識の積み上げについては.最新の法改正関係の内容を労働衛生のしおりを見直し、その他については自身の業務の棚卸に長時間を割きました。
年明けに実施予定であった化学物質管理者講習の講師をするための講義資料作りも、口述試験対策の一環という視点で行いました。口述試験受験時点で「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」の講師が担当できるだけの知識と講義資料作りの経験を持っていたことは、口述試験の準備にかなりプラスに働いたと思います。

これで落ちたらもう労働衛生工学には縁がない、別の方針に切り替えよう、と半ば開き直り、背水の陣の気持ちで当日を迎えたのを覚えています。

この年の試験官はかなり柔らかい雰囲気の方で、落ち着いて試験に臨めました。試験は時刻通り始まりました。試験での応答を下記に記します。

Q:労働衛生に関する経験を述べてください
A:※身バレにつながりかねないので、割愛させてください

Q:その中で労働衛生工学に関する改善の取り組みについて一つ報告してください
A:(化学薬品の保護手袋の選定に関する事例を報告しました(ケミカルインデックスの確認、保護具使用時間の管理、手袋着用に関する教育、破瓜チェッカーによる破瓜時間の測定による交換時間の設定)

Q:前職のし尿処理場での勤務では、酸欠や有機溶剤、特定化学物質の作業主任者をなされていたとおっしゃっていましたが、何かそこでの改善事例はありませんか?
A:原水槽の清掃時、固形物を崩した瞬間に高濃度の硫化水素が発生することをしばしば経験しました。
改善として、まず最初にリスクの高い作業実施時には送気マスクを着用するよう作業手順を改訂しました。その後、砂だまりを曝気し、汚水が固化することのないようにしました。曝気は硫化水素の発生抑制にも効果があったのではないかと考えています。

Q:汚水槽での硫化水素発生機構について説明できますか?
A:嫌気状態での嫌気性細菌による還元反応、例えば脱硫菌の活動による硫酸の還元などにより硫化水素が発生します。


Q:化学物質管理専門家について説明できますか?
A:事業所の作業環境測定の結果が管理区分Ⅲなどになった時、労働基準監督署の指示などを基に、事業所を指導する役割です。

Q:化学物質の自立管理における化学物質専門家については、実は厳密には2種類あるのですが、各々説明できますか?
A:(内心、しまったと思いました)。先ほど説明したのは厳密には作業環境管理専門家です。化学物質管理専門家は、労働基準監督署などが化学物質の管理が適切でないと判断した事業所に意見聴取が指示されるものです。
※淡々と答えているように読めますが、動揺でしどろもどろになりつつ答えてます)。試験官が眉をひそめていたので、この時点で落ちたかもと思いました。

Q:コンサルタントの顧客から、法の規制のない新規化学物質を使用したいと相談を受けたらどうしますか?
A:SDSを参照し、GHS区分、TLV-TWAの記載などがあればその数値を基に、クリエイトシンプルなどで判定します。
ただ、新規薬品でGHS区分が「判断できない」のオンパレードになっている場合などは、判定が甘く出ることが予想されます。そこには悩みがあります。そういった場合、薬品の使用用途、化学式などから総合的に判断し、局所排気装置等の対策を推奨するかもしれません。

Q:局所排気装置の設計で主ダクトと枝ダクトの静圧バランスが取れていないとどうなりますか?
A:(5秒ほど考えたのち)、バランスが乱れるとダクト内の気流の乱れが生じ、期待した制御風速が得られないことがあるのではないか、と思います(自信なさげにこたえています)
Q:局所排気装置の設計はあまり経験がないのでしょうか?
A:はい、外部業者の設計した書類、計算書を確認したことはありますが、自分で設計したことはありません

Q:局所排気装置の設計時に特性線図を描く理由を説明できますか?
A;ちょっと整理させてください(5秒ほど考える)
Q:・・・質問を変えます。局所排気装置の静圧曲線とはなんですか?
A:横軸に風量、縦軸に静圧をとったグラフです。ファンの能力が足らずに静圧が落ちると風量が落ち、ダクト内に粉じんの堆積などが生じたりします。そういったことの生じないようファンの選定が正しいかを判定するのに使用します(普段、業務でふれない分野なので、必死に筆記試験の時の知識を思い出しながら開き直ってしゃべりました)。

試験官:はい、結構です。ではこれで試験を終了します。おつかれさまでした。



コメント:今思うと、最後の質疑は、何とか受からせようとして質問を言い換えてくれているような様子がありますね。

5:試験後と感想

昨年よりは手ごたえがあったものの、最後の微妙な問答もあり、やきもきしながら発表当日を迎えました。感触としては、五分五分と思っていました。
10時に試験協会のHPに自分の番号があることを確認したときは、思わず職場であるにもかかわらずガッツポーズをとってしまいました。
今、応答を見直してみても、試験官の「何とか受からせてあげよう」という意図が見える口述試験でした。おそらく、それは最初の経歴説明と改善事例の報告で、労働衛生工学にある程度知見があると思ってもらえたことに起因するのでしょう。
その意味では、最初に経歴説明と改善事例が、労働衛生工学の口述試験の最大のキーポイントであるといえるのではないかと思います。
なお、3回の口述試験を受けた経験で、口述試験の難易度を私の主幹で順位付けすると
労働衛生工学>>>保健衛生≧電気安全
であったと思います。

6 合格後(2024年度以降の見込み)
2024年1月に、事務所の開業登録を行い、労働安全衛生コンサルタントとして活動を始めています(会社員との2足の草鞋状態です)。
今、保護具着用管理責任者や化学物質管理者の講習の講師の需要が高まっており、どちらも何度か経験しました。その意味では、労働衛生工学に合格した状態で講師活動ができることは、自信につながりました。
講師活動や、書籍の執筆、オンラインでのスポットコンサルティングなど、事務所開設したばかりにもかかわらず、いくつか仕事をいただくことができました。それは、保健衛生(健康診断、メンタルヘルス、長時間労働、労務全般)、衛生工学(重筋作業、騒音作業、化学物質)、電気安全(機械安全、リスクアセスメント全般、OHSMS)と、安全衛生の全般について取り扱える私の強みのおかげの面も大きいと感じています。
今回の労働衛生工学の合格を機に、ますますの研鑽を積み、いま「広く浅く」になっている私の知識・経験を、「広く深く」になるよう、研鑽を積んでいきたいと思います。
今後とも、どうぞご指導のほどよろしくお願いいたします。